特許法等の一部を改正する法律(平成26年5月14日法律第36号)により、商標法が改正され、これまで商標として登録できなかった新しいタイプの商標が、登録できるようになりました。
新しいタイプの商標は、色彩のみからなる商標、動き商標、ホログラム商標、音商標、位置商標の5つです。
本日は、その中から「色彩のみからなる商標」について、ご説明いたします。
改正の時代背景
そもそも、色彩のみからなる商標は、商標としての基本的機能である「識別力」を有していないことが多く、商標として認められていませんでした。
「識別力」とは、自分と他人の商品やサービスを識別するための標識として機能する力をいいます。
色は、基本的にどのような商品やサービスにも使用されるものであり、「色」だけで、誰の商品やサービスであるかを識別できることは少なかったのです。
したがって、日本の商標法においては、「色」は、文字や図形などと組み合わせて使用される場合に限り、「商標」として認められていました。
しかしながら、「色彩のみからなる商標」であっても、長年、継続使用をしていれば、識別力を獲得することがあります。
また、諸外国では、既に「色彩のみからなる商標」を保護対象として認めているところも多く、日本における保護ニーズも高まっていました。
このような背景を踏まえ、日本でも、「色彩のみからなる商標」が保護対象として認められました。
登録のハードルの高さ
それでは、「色彩のみからなる商標」の登録の難易度はどの程度なのでしょうか。
商標審査官が審査において使用する基準として、「商標審査基準」があります。
これには、次のような「色彩のみからなる商標」は、商標法第3条第1項第3号に該当する(商標登録できない)旨の記載があります。
(商標審査基準より抜粋)
『(1) 商品が通常有する色彩
(イ) 商品の性質上、自然発生的な色彩: (例) 商品「木炭」について、「黒色」
(ロ) 商品の機能を確保するために通常使用される又は不可欠な色彩: (例) 商品「自動車用タイヤ」について、「黒色」
(ハ) その市場において商品の魅力の向上に通常使用される色彩: (例) 商品「携帯電話機」について、「シルバー」
(ニ) その市場において商品に通常使用されてはいないが、使用され得る色彩: (例) 商品「冷蔵庫」について、「黄色」
(ホ) 色模様や背景色として使用され得る色彩: (例) 商品「コップ」について、「縦のストライプからなる黄色、緑色、赤色」』
これを見ると、特に(ニ)や(ホ)の要件が厳しく、通常使用されていなくても、使用され得る色や、模様や背景色として使用され得るのもアウト、ということになります。
ここまでハードルが高いのは、商標権が排他独占的な権利であって、「色彩のみからなる商標」の商標権が、その色彩を一私人に独占させるという、非常に強い権利である、ということが理由です。
どうすれば登録できるのか
ここまで厳しいと、「色彩のみからなる商標」は、一体どうすれば登録できるのか、という疑問がわくと思います。
それを解決するのが、商標法第3条第2項です。
これは、たとえ、前記第3条第1項第3号に該当するとしても、需要者の間で、その商標が、特定の者の出所表示として全国的に認識されている場合には、特別に登録を認める、という規定です。
したがって、「色彩のみからなる商標」として、登録されやすくなるポイントは、
(1)その色が、特定の商品やサービスに使用されていること、
(2)その色を、長年、継続使用してきたこと
(3)その色が、特定の者の出所表示として、全国的に周知(=著名)となっていること
の3つといえそうです。
色彩のみからなる商標の出願状況
このように、「色彩のみからなる商標」の登録のハードルは、かなり高いといえます。
しかし、実際には、その色を見ただけで、どこの商品やサービスのものであるか認識できるものというのは、意外に多いと思います。
本記事の執筆時現在、「色彩のみからなる商標」を、特許庁のデータベースで検索してみると、396件ヒットしました。
そして、その中には、その色が、どこの商品やサービスの出所なのか、認識できそうなものも、けっこうあります。
例えば、以下の「色彩のみからなる商標」の出願人は、どこでしょうか。
(1)出願番号:商願2015-29914
指定商品:文房具類
(2)出願番号:商願2015-29957
指定商品:ぎょうざ 等
(3)出願番号:商願2015-30037
指定役務:衣料品・飲食料品及び生活用品に係る各種商品を一括して取り扱う小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供
(4)出願番号:商願2015-45125
指定役務:クレジットカード利用者に代わってする支払代金の清算
(5)出願番号:商願2015-52594
指定商品:コーヒー 等
正解は、こちらです。
正解:
(1)株式会社トンボ鉛筆
(2)株式会社王将フードサービス
(3)株式会社セブン-イレブン・ジャパン
(4)株式会社ジェーシービー
(5)ダイドードリンコ株式会社
どうでしょうか。
意外と、分かった方もいらっしゃるのではないかと思います。
これが全国的に認識されていれば、登録される可能性が高いということです。
実務では、この著名性の証明は、使用開始時期や期間、広告宣伝回数などを考慮した上で、当該広告物や写真、インターネット上の記事などを提出して行います。
「色彩のみからなる商標」の活用
このように、長年、特定の商品やサービスに使用され続けてきた結果、色彩のみからなる商標であったとしても、識別力を有すると思われるものが存在します。
そして、今般の法改正により、それが商標の保護対象として認められたということは、色彩のみからなる商標にも、需要者の業務上の信用が蓄積され得ると判断され、そこに保護すべき価値が認められた、ということでもあります。
読者の皆さまの中にも、もし長年、特定の商品やサービスに継続して使用している色があったら、それを知的財産として保護・活用するためにも、ぜひ、「色彩のみからなる商標」の出願を検討してみてはいかがでしょうか。